1980 Fender Stratocaster Natural

1980 Fender Stratocaster Natural

今回は1980年製フェンダー・ストラトキャスターを紹介します。1979?81年の間、ストラトキャスターの生産本数が最も多い時期と言われており、各パーツが増産された結果、ストック数が管理できず、ボディよりネックの方が多く作られてしまうというトラブルも発生したようです。この時期のストラトキャスターはどのような作りであったかを各パーツごとに見ていきたいと思います。  まずヘッドは1965年より続いているラージ・ヘッドでCBS時代の象徴とも言えるデザインですが、ヘッド・ロゴは時代により変更されています。1976年には、それまでネック・プレート裏に刻印されていたシリアル・ナンバーがヘッド・ロゴ下に移り、“ヘッド・シリアル”と呼ばれる時代に入ります。

その後、ボディやピックガードを筆頭に各パーツにもシリアル・ナンバーが振られるようになり、1978年頃になるとネックとアッセンブリーに同一のシリアル・ナンバーが付くようになります。ピックアップのボビン裏にもデータが入っており、最後の2桁が年式を表わすことが多いですが、これが消えかかっていたり、スタンプされていないものも存在します。

1976年頃からマイナー・チェンジが頻繁に行なわれるようになります。まず前年の75年に、ピックガードが白3プライから黒3?4プライへと変更。これに伴い、ピックアップ・カバーやノブ、バック・プレートなども徐々に黒プラスティックに変更となりますが、すべてのパーツが黒になったのが1977年に入ってからでした。

おそらくこれは白のパーツが残っていて、使い切りたかったからでしょう。こうしたことはフェンダー社ではよくあることで、テレキャスターが発売された1952年当時も“ノーキャスター”のロゴ・シールが余っていたことで、テレキャスターの名前が正式に決まっていたにもかかわらず、しばらく“ノーキャスター”のロゴ・シールが使用されていたそうです。

1976年にペグは独シャーラー製“Fキー”に変更されました。ペグ自体のサイズが変わったことで、ヘッドに空けられたペグ穴も少し大きくなりました。  1977年には、それまでピックアップ・セレクターは3ウェイ・スイッチでしたが、これが5ウェイになり、これでハーフトーンがセレクトできるようになりました。これ以前からハーフトーンのアイデアはすでにミュージシャンの間で広まっており、中でもエリック・クラプトンがこのセッティングを愛用していたことは有名です。クラプトンを含め、ギタリストたちはリペアマンに依頼し、中間ポジションにスイッチが収まるような改造を施しており、その代表的な改造方法がスイッチ内に仕込まれているバネを抜くというものです。このようにギタリストたちに広まっていたわりに、フェンダー社が改善に乗り出したのが遅かったと言うこともできます。

1978年にはアッセンブリーの配線法の中でアースの取り方が変更となりました。それまではピックガード裏面に貼ってあるアルミ・シートと金属製のポットが接触していることで、これをアースとして利用していましたが、この方法だとポットを固定する六角ナットが緩んでしまった場合、ポットがアルミ・シートと離れてしまうことでアースが断線……すなわち音が出なくなってしまいます。そこでボリュームとふたつのトーンそれぞれのポット裏に黒いアース線をハンダ付けして結ぶという改善方法が1978年に行なわれ、この改善により、音が出なくなるというトラブルが減りました。  1979年にはさらにアッセンブリーの改善策が取られます。今ではノイズ対策として一般的な導電塗料をキャビティ内に塗り、シールディング加工がされるようになりました。よりハイゲインなサウンドが求められれるようになり、他メーカーでもシールディング加工方法の開発が進んでいました。ギブソン社でも裏のパネルを外すとコントロール部分を覆うようにシールディング・ボックスを被すなどしていました。

今回の1980年製も前述した特徴を持ち、時代感が味わえる1本となっております。楽器を見るとその時代に必要とされていたサウンドや用途などが製品に反映されていて、非常に興味深いものがあります。フェンダーのギターはミュージシャンの意見と技術者の開発能力により進化してきたブランドで、今後もユーザーとのコミュニケーションにより、その時代ごとのサウンドをクリエイトしていくことでしょう。

Written by デューク工藤

本連載を執筆していた当時は渋谷店に勤務し(現在は御茶ノ水本店FINEST GUITARS在籍)、プロフェッサー岸本が一番弟子と認めた存在。数々のレジェンダリーなヴィンテージ・ギターを師匠と共に見て触わり、オールド・ギターに関する知識を蓄積。自身のフェイバリット・ミュージックは60~70年代のロックとブルースで、音楽趣向においてもヴィンテージ路線は貫かれている。

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