1943 Martin OOO-18

1943 Martin OOO-18

1902年、マーティンは当時最大のボディ・サイズであった“OOO(トリプル・オー)”の製作を開始。ボディ全幅が15 3/16インチ(385.76mm)あり、別名“オーディトリアム(Auditorium)”とも呼ばれています。

当初はOOO-21とOOO-28を発表しましたが、今回ご紹介するOOO-18が登場するのは1911年。今日ではスタイル18と言えば、ボディ・サイド&バックにマホガニーを使用したモデルと認識されていますが、初期の頃はローズウッド(ハカランダ)を使っており、現在のようにマホガニー材を使用し始めたのは1917年からでした。

当時のトリプル・オーのスケールは24.9インチ(632.46mm)でしたが、1924年にいったん25.4インチ(645.16mm)となり、再び24.9インチに戻ったのが1934年。ちょうど前年の1933年にOMモデルがOOOモデルへ移行し、マーティン社は“OM”の名前を使用中止に。OMが復活するのは1960年代後半になってからでした。

トリプル・オーは最初12フレット・ジョイントでしたが、OMからの引き継ぎにより、1934年から14フレット・ジョイント仕様に変更となります。14フレット・ジョイント・モデルが誕生した大元のきっかけが1929年製のOM-28です。当時のプロ・バンジョー・プレイヤーであったペリー・べクテルがマーティン社に、「幅広い音域での演奏が可能な14フレット・ジョイント・モデルを作れないか」と提案したことが始まりでした。早速同年にマーティン社はサンプルを作り、半年のうちに11台を製作したと言われております。

1935年になると、サウンド面で重要なポイントとなる仕様変更が行なわれました。まずブレイシングですが、それまでのフォワード・シフトと呼ばれる仕様から、交点の位置がサウンド・ホールからやや遠ざかったスタイルへ変更。  さらに指板とブリッジの材が、それまでのエボニーからローズウッドを使うようになりました。翌1936年にはバインディングがベッコウ模様のセルロイド製になるなど、スタイル18の仕様が大きく動いた時期でした。

今回紹介の1943年製はスキャロップド・ブレイシングを採用した最終年モデルとなります。翌1944年から、トップ材の強度不足を懸念したマーティン社はその対策としてスキャロップド・ブレイシングを廃止にし、それに伴い力木自体の幅も少し太くなります。  これらの変更が行なわれたのがシリアル・ナンバー#84901からなので、本器はぎりぎりセーフ。スキャロップド・ブレイシングならではの力強いサウンドを楽しめます。さらに細かく仕様を見ていくと、本器はネックの補強材としてエボニー・ロッドが仕込まれているところも特徴でしょう。

1942?45年まで、第二次世界大戦の余波により金属不足に陥り、その影響をもろに被ったのはマーティン社だけでなくギブソン社も同じで、この時期にトラス・ロッドなしのモデルを作らざるを得ない状況でした。ブランドが違えど、時代背景により共通点が生まれ、それらがその後のオールド・ギターの鑑定する際のチェック・ポイントになりました。

マーティン社は戦後からスティール製Tバーを復活させますが、戦争という不幸な出来事がなければ、エボニー・ロッドという仕様がなかったかもしれないと考えると感慨深いものがあります。次回も引き続き、マーティンの世界をご紹介いたします。歴史があるブランドは深いですね。

Written by デューク工藤

本連載を執筆していた当時は渋谷店に勤務し(現在は御茶ノ水本店FINEST GUITARS在籍)、プロフェッサー岸本が一番弟子と認めた存在。数々のレジェンダリーなヴィンテージ・ギターを師匠と共に見て触わり、オールド・ギターに関する知識を蓄積。自身のフェイバリット・ミュージックは60~70年代のロックとブルースで、音楽趣向においてもヴィンテージ路線は貫かれている。

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