Vintage Guitar Gallery

1964 Gibson J-45 Cherry Sunburst

今回はギブソン・アコースティック・ギターを紹介しましょう。フラット・トップ・アコースティック・ギターの中でも人気のあるギブソンJ-45が発売されたのは1942年。そのボディの仕様は、トップがソリッド・スプルース、サイド＆バックはマホガニーからなり、マルチプル・バインディングが施されていた。

しかし戦時中だったため、材料の面では木材や金属の供給が制限されていた。トップ材は4ピースであったり、金属製のアジャスタブル・トラス・ロッドが使えなくなったため、その代用としてエボニー材をネック内に入れて補強をし、トラス・ロッド・カバーもナシという仕様で製造されていた時期がある。発売当初は決して恵まれた環境ではなかったわけだ。しかしトラス・ロッドが仕込まれていないJ-45は非常に力強いサウンドを持ち、金属が使用されていない分、純粋なアコースティック・サウンドが得られるなど、波乱に満ちた時代ならではの奇跡が生まれた。1942?46年までの［J-45］は、ヘッド上に筆記体で“ONLY A GIBSON IS GOOD ENOUGH”と綴られたロゴが入っており、これは通称“バナー・ロゴ”と呼ばれ、有名な仕様となっている。

その後、［J-45］は数々のマイナー・チェンジを繰り返すことになるが、そうした中でチェリー・サンバースト・フィニッシュが加わったのが1962年。今回紹介する個体は1964年製で、奇跡的なくらい綺麗にフィニッシュが残っており、60年代の特徴が詰まった人気のある年代のものである。パーフリング（サウンド・ホールの装飾）の輪がダブルになった通称“ツー・リング”で、厚めのラージ・ピックガードは1963年から採用された仕様である。

また、弦高調整が可能なアジャスタブル・サドル・ブリッジは56年からオプションとなっていた仕様だが、60年代に製造されたギターのほとんどにこのブリッジが付いており、その歯切れの良い軽快なサウンドは多くのミュージシャンたちから支持されてきた。そのサドルの構造だが、ブリッジの両端に2本のボルトが仕込まれており、マイナス・ドライバーで回すことで、ブリッジ自体が上下し、弦高とテンションを調整できるという画期的なデザインである。サドルやブリッジはアコースティック・ギターにおいて振動を司る大切なパーツだが、この箇所をここまで大胆にアレンジを施す勇気もさることながら、そこから独自のサウンドをクリエイトしてしまったわけだから、ギブソン恐るべしである。サドルはローズウッド製のものとフェライト（陶器）の2種類があり、アタック感が変わるところなので好みが分かれるであろう。

1964年製のギブソンのネックはアコギのみならず、フルアコやセミアコのモデルでも評判がとても良い。指板の幅が少し広く、ネックの肉厚も程良いので、非常に弾きやすい。加えて当時ネックに使用していたホンジュラス・マホガニー材がしっかりしていたので、その恩恵で音響的にもサステインに優れ、強度的にも非常に安定している。

指板は色の濃いハカランダ（ブラジリアン・ローズウッド）を使用。レスポンスの良いアタック感と自然なコンプレッション感が同居し、ギター全体で鳴っているという印象だ。フィンガーピッキングからストロークまで幅広く弾ける、まさに万能なアコースティック・ギターという仕上がりを見せている。 　エリック・クラプトンがクリーム時代から使用していたES-335も1964年製である。フェンダーにおいてもストラトを筆頭に、1964年以前に作られたものは、同じヴィンテージでも特に人気が高い。この年までに作られたギターには、何か特別なものがあるのかもしれない。

Written by デューク工藤

本連載を執筆していた当時は渋谷店に勤務し（現在は御茶ノ水本店FINEST GUITARS在籍）、プロフェッサー岸本が一番弟子と認めた存在。数々のレジェンダリーなヴィンテージ・ギターを師匠と共に見て触わり、オールド・ギターに関する知識を蓄積。自身のフェイバリット・ミュージックは60～70年代のロックとブルースで、音楽趣向においてもヴィンテージ路線は貫かれている。

御茶ノ水本店FINEST GUITARS