1959 Gibson ES-335TD

1959 Gibson ES-335TD

Gibson Custom Shop Historic Collection 1959 ES-335

Gibson Custom Shop Historic Collection 1959 ES-335

1967 Gibson ES-335TD

1967 Gibson ES-335TD

Gibson Custom Shop Historic Collection 1963 ES-335

Gibson Custom Shop Historic Collection 1963 ES-335

Gibson ES-335TD Extra Edition

Gibson ES-335TD Extra Edition

 1958年、ギブソン社によって今までにない新しい構造を持つ、セミ・アコースティック・ギターが開発された。モデル名に使用される[ES]とは「エレクトリック・スパニッシュ」の略で、その歴史は1940年代まで遡り、ES-300、ES-350などの「フルアコ(フル・アコースティック)」と呼ばれるエレクトリック・スパニッシュ、つまりエレアコが製作されていた。50年代中期には、これらのフルアコのモデル名末尾に[T]が追加され、より薄いボディ形状を持つ「シン・ボディ」がライナップに加わる。これがシンライン・シリーズの始まりである。

1955年に登場(NAMMで発表)したES-225Tを皮切りに、シンライン・シリーズの原型が固定化されてくる。意図的にトップの振動をコントロールするためのラミネイト構造を持ったメイプル・プライウッドの使用や、当時のレス・ポールに使用されているメタルのブリッジなどが使用され始める。このES-225Tはアーチトップとソリッド・ギターの特徴を併せ持ったトーンであったが、この進化系がセミアコの誕生へと繋がっていく。

1958年にES-335TDは発表され(57製のプロトタイプも存在する)、57年に開発されたハムバッキング・ピックアップ(通称[P.A.F.])、プレイを重視したダブル・カッタウェイ構造、そして注目すべきはボディ内にセンター・ブロックが採用されたことである。発売と共にラインナップしたカラーはサンバーストとナチュラルで、現在最も目にするチェリーは60年まで製造されていない(プロトタイプやカスタムメイドは存在してもおかしくないが……)。

センター・ブロックにはソリッドのメイプルが使用され、ソリッド・ギターに近い振動系を再現することで、コシのあるサウンドを実現した。メイプル材によるセンター・ブロックはスノコ状のスプルース材を挟み込んだ形で接着。ボディ内部に角材のメイプルを埋め込むのが製作上、難しく、それを回避すべく行なった対処策であった。さらにこの構造は、ボディ・トップの振動を妨げることなく、有効なバイブレーションを生み出した。

トップ材には、3プライのラミネイト・メイプルを使用。敢えてスプルース材を使わなかったのは、低音弦側のフィードバックを防ぐ目的と、充実したサステインを実現するためである。また、新構造のダブル・カッタウェイは、ネックをほぼ最終フレットまで露出することで、より斬新なプレイをコントロールできるよう設計されている。この構造を可能としたのもセンター・ブロックにメイプル材を使用したからで、ジョイント強度を一層高める効果をもたらした。

特に振動系において重要な部分として、ストップ・テイルピースの採用が上げられる。レス・ポールなどのソリッド・ギターに使用されているものと同じものが採用されているが、メイプル材のセンター・ブロックがあるからこそ、スタッドをボディに打ち込むことができた。加えてレス・ポールのようなロング・サステインを生み出すのにも貢献している。

1962年にモデル・チェンジがあり、数箇所のマイナー・アップデートが行なわれる。ポジション・マークがドットからブロックへの変更され、ピックアップは[P.A.F.(パテント・アプライド・フォー:特許出願中という意味)]から、特許ナンバーの入ったデカール・タイプ(通称「ナンバード」)へと63年頃より移行される。またES-335の特徴として触れてきたセンター・ブロックも構造が変更された。また姉妹機であるES-345やES-355にはバリトーン・スイッチという、コイルとコンデンサーによるLCネットワーク回路を利用したプリセット・トーンが搭載されており、同回路のうちチョーク・コイルがリア・ピックアップのキャビティ下に収まっていた。

ネックの握りも60年より薄目のネック形状へと変更。このネックの薄さと、ナンバード・ピックアップに使用されるコイル及び、センター・ブロックの形状の変更により、ドット・ポジション・マーク期とブロック・ポジション・マーク期ではサウンドが異なる。ドット・ポジション・マーク期のサウンドの特徴は、よりタイトでサステインが豊富。一方のブロック・ポジション・マーク期は、センター・ブロックのリア・ピックアップ下部にスペースがあるため、セミ・ホロウ効果が若干生まれたのと、ストップ・テイルピースからブランコ・テイルピースに変更されたことによる弦のテンションの違いから、やや甘めで色気のあるサウンドが特徴といえる。

1965年にもマイナー・チェンジが行なわれ、ヘッド角が17度から14度へと変更された。またこの頃より、ネックの形状が細くなり、ナロー・ネックと呼ばれている。ナロー・ネック・モデルはパーカッシブなサウンドが特徴で、歯切れの良いカッティングには最適だ。また、66年にはさり気なくメッキの仕様がニッケルからクロームへと変更されている。1969年になると、他モデル同様にマホガニー3ピース・ネックが採用され、68年からはFホールのサイズもやや大きめになった。以前まではリア・ピックアップのキャビティからポットを筆頭とするアッセンブリー類の出し入れを行なっていたが、この仕様変更により、Fホールからもできるようになり、作業の簡略化が図られた。70年代に入るとウォルナット・カラーが追加され、72年頃にはピックアップ・カバーに[GIBSON]の刻印の入ったモデルも登場。ナンバード・ピックアップ(ステッカー・タイプ)、マホガニー・ネック、ABR-1ブリッジという、75年までの仕様のものを現在はヴィンテージ・ギターとしてカテゴライズしている。

現行のギブソン社では、カスタムショップにてES-335の生産を続けられており、中でもヒストリック・コレクションのものは上記の仕様を受け継いでいる。歴史に準じたトップの製作工程を辿るため、ギブソン工場がミシガン州カラマズーにあった頃から使用しているプレス機械を用いてトップ材をプレスし、そのほとんどを手作りで製作している。購入の際、59年モデルと63年モデルで迷ってしまうが、ヒスコレの完成度は非常に高いので、仕様の違いからくるサウンドや、演奏ジャンルによって選択するといいであろう。

また、クラプトンがクリーム時代に使用していたES-335を完全復刻したモデルがカスタムショップより発売となったが、これが最高の完成度で仕上げられており、言うまでもなく即日完売状態となった。クラプトンがニューヨークのクリスティーズにてオークションに出品した、この1964年製のES-335(チェリー)は、アメリカ最大の楽器チェーン店「ギター・センター」によって2004年に落札された。ギター・センターはギブソン・カスタムショップへ、このES-335を持ち込んだ。カスタムショップのスタッフは、ネック・シェイプから、ボディの傷、ケースに至るまで、見事に再現することに成功し、発売までこぎ着けたのである。ヒストリック・コレクションに打ち込むギブソン社の姿勢こそが、この一大事業を成功へと導いた要因と言えるだろう。

Written by デューク工藤

本連載を執筆していた当時は渋谷店に勤務し(現在は御茶ノ水本店FINEST GUITARS在籍)、プロフェッサー岸本が一番弟子と認めた存在。数々のレジェンダリーなヴィンテージ・ギターを師匠と共に見て触わり、オールド・ギターに関する知識を蓄積。自身のフェイバリット・ミュージックは60~70年代のロックとブルースで、音楽趣向においてもヴィンテージ路線は貫かれている。

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